涼宮ハルヒの冬休み |
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前置き
高校一年の冬。俺にとってもSOS団にとっても重要な事件がいつも以上に多発した時期である。詳細は原作小説の消失および暴走あたりを読んでもらえると最速でご理解してくれるだろう。
その間に宇宙的、未来的、超能力的事件がまああった訳なのだが、それ以外にも勿論SOS団の活動らしいいかにもハルヒが起こしそうな、一応は常識の範疇にある色々なイベントがあったのだ。というかあるのだろう、多分、恐らく。
とは言ってもイベントと呼べるような大きな事ではなく、もっとしみじみとした日常的なことだ。ただ単にハルヒ含むSOS団員が係わっている為にちょっと複雑になったりしているだけである。
今回はその一部を少し、振り返ってみようと思う。なにせ冬休みは長いのだ。それくらいの思い出を振り返る時間くらい、俺にあってもいいだろう。少しくらいハルヒネタの短編物を書いてみても、作者は許してくれるだろう。
どこかのエスパー的団体も、あるいはいつかの時代の人々も、もしくはこの世界のどこかにいる神秘的生命体だって、それらが注目を集める一女子高生も、許してくれるだろうさ。
季節は冬、場所は部室。俺は白を表にした円盤を緑色のマスに置いて、周囲のマスの円盤も同様の色に裏返しながら、若干の薄ら寒さを暖かいお茶をすすることで打ち消した。まだこの辺りで雪は降ってはいないが、月はいつのまにか最大値に増え、冬も本番に確実に近づいていた。
「えーと……」
長机の向かいにいる朝比奈さんが俺の置いたマスと裏返ったマスを見ながら、どこに置けばどこが裏返るのかを愛くるしく考えている。
一応上着をお互い着込んでいるのだが、肌寒いのか時折身を縮めて、湯飲みを持って自らが入れたお茶をすすっている。別にこの寒さでハルヒや古泉が風邪をひこうがどんな病にかかろうが俺は別に構わないのだが、朝比奈さんの健康を壊す可能性があるのであれば別である。とは言っても自宅から持ってくるのは距離的に難しそうである。古泉に機関とやらの力で持ってきてもらえれば助かるのだが、ハルヒの不機嫌を阻止するためとかいう名義で何とかならないものかね。
「えいっ。……えっと、ここと、ここと……」
俺は朝比奈さんの置いたマスと裏返したマスを眺めて、一つ助言をする事にした。なにせ朝比奈さんの置いたマスは、いかにも取って下さいと正座で頭を下げて言ってきそうな場所である。その上、その先を考えても裏をかいている様にも見えない。
「朝比奈さん。それだったら、ここのほうが角を取らせにくできて──」と、俺は新たなコマを使いながら説明した。その時間の間、朝比奈さんは寒さで体を震わすのも忘れて、相槌を打ちながら俺の説明に聞き入っているようだった。説明をすべて終えると俺は元あった位置と裏表にコマを全部戻して目の前の小さな先輩に問いかけた。
「で、どうします?」
どうせ『待った』は部室内の原子の数くらいまでならオーケールールだ。いくらでも待ちますよ。
「もしかしてこれもキョンくんなりの、引っ掛けですか?ここに置くと、実はキョンくんが勝っちゃうっていう」
そうではないんですけどね。大人のだましを前にして心を読んでやった子供みたいな顔をして、朝比奈さんは勝気な満面の笑みを見せていた。
「じゃあこのままでいいんですか?」
「はい、やっぱり曲がりなりにもさっきの私が選んだ未来ですから」
未来人らしい素敵な言葉だ。それも今度は人生の先輩らしい、相手より少し世界を知って悟ったような笑顔をして。
「それじゃあ、俺の番ですね」
「はい、どうぞ」
俺は苦笑のような、してやったりで笑ってるような、微妙な表情でコマを置いて裏返していく。盤が複雑化していて朝比奈さんは自分のコマが危険事態に陥っているのに気づかなかったらしい。俺が裏返し終わって朝比奈さんの番になり、しばらく緑のマップを見つめて朝比奈さんは驚きの声を上げた。
「ほぇ?」
なんとなく、朝比奈さんのミスが申し訳なくてさっきの説明で言わなかったのだが。
「あれ、ここも、あれ……キョンくん、置く場所がないみたいです……」
「じゃあパスということで、いいですか?」
「は、はい」
コマをとって、何分か前から決めていたマスに目を向けてそこに白を上に向けたコマを俺は置いた。
「あれ、ふぇぇ……え、え、えええええええっ!」
盤にはまだ空白はあるものの、置かれた円盤は白一色となった。
「すいません」と申し訳なさそうな顔をして言ったつもりだったんだが、どうやら俺には古泉みたくポーカーフェイスの才能はないらしい。
「ど、どうしてそれを言ってくれなかったんですかぁ、もぉ!」と、朝比奈さんは長テーブルごしに身を乗り出して俺の肩をつかんで揺さぶった。
「あ、あははっはは──」
ガチャリ
「あらぁ、みくるちゃん。何をしてるのかしらぁ」と、ハルヒが部室の扉をノックもせずに開けて入ってきた。凍りつく朝比奈さんとハルヒの位置はいつぞやの放課後みたいだな。後ろには無表情の長門と、事前に連絡できずにすいませんとでも言いたげに苦笑している古泉をつれて。
もしこれが、テーブル越しではなく隣り合って何か別のゲームでもしていたら、俺と朝比奈さんの最終的な距離はかぎりなくゼロに近く縮まり、ハルヒの怒りゲージは絶望的なまでに高まっていたかもしれない。
「まあいいわ。ところでこの部室の中も結構肌寒いわね。キョン、ちょっとひとっ走りしてカイロをたくさん買ってきて」
はいはい分かったよハルヒ様。どうせ抗議したって無駄なんだ。コンビニは坂を下りて少し歩いたそこにあるし、カイロはそんなに重いもんでもない。下校時刻まではまだ時間もあるし素直に行ってやるさ。
俺は寒さと椅子に長く座っていて固まった体を伸ばすように、ゆっくり立ち上がって、上着のボタンを閉めて部室を後にした。
結局、そのコンビニまで行ったところ、暖房製品はかなりの売れ行きを誇っており、おかげでそれらがまとめて置かれたスペースには、他の値段がお高い商品ばかりしかなかった。無論、カイロなどというお手軽お徳用製品はそこには欠片もなく、やむを得ず少し離れた別のコンビニまで行く事になった。
結局のところ、三つ先のコンビニで少し高めのどこがお得か分からない値段に設定されていたお徳用カイロを買って、ようやく学校へ引き返すことができるようになった。
さて、たかがカイロごときで何故ここまで時間掛かっているのよとかそんな感じの電話が掛かって来ない所を推測するに、どうやら部員で何かゲームなり遊びなりをして、ただいま寒さを感じる暇もなく満足中なのだろう。想像しただけで腹が立つが、まあ慣れたもんだ。適当にその辺の石ころを蹴りながらストレス解消と暇つぶしをしつつ、学校までの長い道のりを、パソコンに入ってるゲームをやりながら事務処理でもする様に俺は歩く。
部室に戻ると、罰ゲーム大富豪なる物を四人でやっていた。結果は見るも無残、ハルヒがダントツ一位で最下位は古泉。ハルヒは初っ端から大富豪を取り続け、長門は読書片手間ながらも富豪を維持し続け、古泉は古泉で接待する暇もなく無残に連続大貧民。残った朝比奈さんは訳も分からないうちに貧民で上がっているというらしい。
「いやあ、助かりました。この状況ではゲームはまったく動かず面白みがありませんからね。是非参加してください」
どっちにしろお前は最下位固定だろうさ。俺がお前含めた大富豪で負けた覚えがあるか?
「確か、いつぞやのときは涼宮さんの革命によって、あなたの手札が不利になって僕が貧民に上がったような気がしますが」
どちらにしろお前の実力じゃあないだろうが。
「まあ、それを言ってしまえばおしまいなんですけどね。さて、階層はどうしましょうか」
そうだな。まあ普通ならリセットするか、平民として入れてもらうかなのだが、こいつはそうは言わないだろう。
「キョン、さっさとそれをこっちに渡しなさい!部の備品はみんなに平等に配るべきよ。占拠なんて許さないんだからね!」
お前が言うなと、心で文句をつけておいておきながらも俺はお徳用パックのカイロをハルヒに投げて寄越した。半年間以上そんなセリフばかり聞き続けた所為か、耳と脳回路が壊れているのかもしれない。いや、反論する体力も気も尽きたんだろうな。
ちなみに部の備品と言いながら、その一つづつ配られている小袋は俺の自腹である。朝比奈さんや長門は別にいいし、ハルヒはどうせ払ってくれないだろうが、古泉には機関を通して徴収したほうがいいかもしれない。あ、それなら領収書を貰っとけばよかったと地味に後悔する俺を尻目にハルヒは二つも使ってぬくぬく感に浸っていた。
まあ色々と不満は募るが、それでも彼女には謝っておかなきゃいけないだろう。
「すいません、朝比奈さん。その辺のコンビニじゃあ売り切れみたいで遅れてしまって」
彼女はこの寒い部室の中、寒さを感じないほどに熱中したハルヒやどうにでもなる長門と違って、湯飲みの熱と上着だけで寒さを凌いでいたのだ。謝っても謝り切れない。
「いえ。寒空の下ご苦労様でした、キョンくん。風邪ひいてないですか?」
「心配ないわよ。キョンはバカだから風邪なんてひかないもの。いつまでもカイロを見つけれなかったキョンが悪いのよ」
いいさ、いつまでも自分が頂点だと思っていればいいのさ。俺はいつぞやの大富豪で不動のトップとなったハルヒに一矢報いるべく大富豪の地方ルールやらをネットで暇つぶしに調べておいたのだよ。幾つかは忘れてしまったが、あらかたシミュレートして覚えてある。えーと、あれが階段で、それがジャックバックで……あれ?思っていたより記憶していないことに自らの記憶領域の狭さをうらやむがもう遅い。
「さて、順番は結局どうしましょうか」
「そうね、キョンが不公平だってうるさがるだろうから、ウノに変更しましょ。順番も今ここにいる席順の時計回りで!あんたはココ」
なんですと!
お前の思考パターンを読んで勝った気でいたと言うのに。だがせっせと朝比奈さんの手によってトランプは片付けられ、古泉がウノを出してカードをきっているのでもう後には戻れない。
俺はさっさと座れと叩いているイスに座り、順番を確認した。俺、古泉、朝比奈さん、長門、ハルヒ。この順番では俺がハルヒによる奇跡的先読みをされたカードを出されるのが落ちだろう。今日はほんとに、ついてない。
結果、団員対抗ウノ大会では、ハルヒによるなぜか俺の出せない色番号カード攻撃や大量に繰り出されるドローツー、透視をしたかのように出してくる長門のカードによって、惨敗に帰した。さらに今回の古泉は反則負けになることもなく、うまい具合に俺の出せなかった札の上にポイポイとハトにまくエサのように新たな札を積み重ねていったのだ。よって貰い勝ちは一切なかった。朝比奈さんも故郷にはウノがあるのか鶴屋さんとでもでやりなれているのか、これと言ったミスをせずに古泉と中間争いをしていた。
唯一の救いは罰ゲームがなかったことである。
「キョンって意外とウノ弱いわね……そうだ、次回は負けた人がパシリとか罰ゲーム付でやりましょ!どうせキョンのボロ負けで奴隷に格下げよ!」
せめて次回は、ハルヒや長門に挟まれない順番で頼む。
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