古泉一樹の憂鬱 |
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注意書き
これは涼宮ハルヒシリーズの古泉視点バージョン短編です。
ちなみに、古泉一樹くんはプライベートがかなり不明です。
おそらく機関的なもの、それでも家族は一応いるだろう的な物、と色々が絡んでるとは思いますが、色々不明なので、色々想像で書いて、色々今後の原作で発表される設定を無視するだろうと思います。
できればその辺を気にせず生暖かい目で見守っていてください。
初めまして。いえ、おはようございます、と言うべきでしょうか。古泉一樹です、よろしくおねがいします。
僕は機関と言うのに所属し、常人にはない人脈や能力を持っていますが、それでも一学生であり人間であるのです。例えこのような能力を持っていても、一応は僕が学内で活動している不思議な団体の彼らと同じ人類なのです。それをお忘れなく。
さて、僕の朝は浅い眠りから目覚め、顔を洗うことから始まります。その後、朝比奈みくるにならえば規定事項とでも言うのでしょうか。機関に支援する不動産会社から借りている部屋の寝室で、機関へ連絡を入れる事は、僕の一日で始めに行う機関の仕事です。もしも僕が睡眠をとっている間に世界が終焉を迎えようとしていたらと思うとゾッとしますからね。一応、こちらが無事であることと、機関自体がまだ存在している事を確認するためです。
世界がまだ正常である事を確認して、朝食のトーストと目玉焼きとベーコンとサラダとオレンジジュース。一日の初めに摂取する朝食こそ、栄養バランスが整った食事である必要があり、また睡眠から目覚めたばかりの体に負担をかけない軽食でなければなりません。なお、朝食は自らの手で調理しています。実家から離れたこの学校に来るために両親の元を離れる必要があり、また機関の人物が私の元へ訪れる事もありますから、一人暮らしのほうが色々と便利なのです。
そして用を足した後、制服に着替えて所定の時間に家を出ます。もちろん、今日は燃えるゴミの日なので、ゴミ袋を片手に提げる事も忘れないように。
そういえば昨日、ちょうど月曜日にお二人が市内探索に向かっていた為、全員が揃うのは休日も含めて四日ぶりになりますね。たった三日間顔を合わせなかった程度で、まるで懐かしい友人に会うような妙な気分になる自分に苦笑します。
今日はどのような面白い事がSOS団で起こるのか、どのような騒ぎを涼宮さんが起こし、どのような反応を朝比奈みくるが見せて、どのような対処を長門有希が行い、そして、彼は一体どうするのか。
「ふふっ……、自然と笑みがこぼれますね」と、僕は呟き、クラスメイトに声をかけられて思考を中断した。
クラスメイトに囲まれながら愛想笑いで相槌を打ちつつ登校し、教室の自らの座席に着いてからもそのまま談笑。話題内容は高校生らしいそれ、ドラマや映画、俳優など、時には学校内の教師の話であったり、授業や進学の話だったりもします。この状況は傍から見た場合、どのように映っているのでしょうか。友人同士の他愛のない会話でしょうか。僕にとってこれらは、どういう気持ちでやっているのか。機関には同じように付近の地域に派遣され、事務処理のように淡々とこなしている人もいれば、すっかり馴染んでその生活を楽しんでいる人もいる。果たして僕は、どちら側の人間なのか。
考え事をしていると、僕を囲む一人が僕の異変に気づいて心配そうな顔で声をかけました。僕とした事が、ついミスをしてしまいました。
「いえ、なんでもありません。そういえば、用を思い出したので失礼します」
ホームルームまでの時間を利用して、僕は席を中心に輪になっていたクラスメイトの中から抜け出して、とある教室を目指しました。クラスメイト達が旧館と呼ぶ校舎、部室棟。元文芸部室、現SOS団部室へ。
特に理由はありません。けど、なんとなく日常に飽きてここに心が惹かれる物を感じたのです。さて今行けば、恐らくこのホームルーム前の時間でも、SOS団に朝錬という概念がなくても──
文芸部室と言う札の貼られた一室、木製の扉を開けると簡素なパイプイスに座っている一人の女性を見つけました。いえ、本来は見た目で判断するべきでない存在である彼女を、女性と表現しでもいいのでしょうか。
「おはようございます、長門さん」
「…………」と、首だけ動かして僕を一瞥した後、再び両手で支える分厚い本のほうへ首の向きを変えて読書に戻った。
僕は肩をすくめて、彼女と向かい合う形でイスに座りました。さて、座ったからには何か会話をしないと不自然ですね。いや、彼女にはそこまで気を使わなくてもよさそうですが……、と僕はしばし葛藤して、口を開いた。
「何の本ですか?」
「……」
またチラリとこちらを向いて目が合うのですが、どうやら僕より本のほうに興味があるようで、一言も口にせず寡黙を徹した。それとも、敵に送る塩はないと言うことでしょうか。
しばらくそのまま彼女を観察して、部室に飾られている時計を見て残りの休憩時間がわずかしかない事を察すると、席を立って扉まで歩いて後ろを振り向いて尋ねた。
「ホームルームがあるので、お先に失礼します。長門さんは?」
「……私はいい」と否定。
では、と一言かけて僕は扉を開けて、廊下のリノリウムの質感を椅子に座ってなまった足で味わうように、のんびりした歩きで進んだ。まるで、足りない心地を足から吸収しようとしているかのように。
「部室には長門有希が居て、基本的に寡黙である彼女が僕と言うイレギュラー因子に口をきいてくれたのは嬉しいのですが、どうにも気が晴れません……。一体なにが足りないんでしょうか。僕は、大抵の問題で頭を悩ますことはなく、例えそのような事が起きても今までは僕個人の力で解決して来れました。しかし、どうにもうまく気が晴れません。気分転換に変化を求めて朝に部室に来てみたり、深く思い詰めないようにいつもよりクラスメイトに耳を傾けて気を逸らしたつもりでしたが、どうやら逆に考えすぎの原因になってしまったようです……」と、珍しく長い独り言を呟いてしまった。
僕は、憂鬱でした。
メインディッシュを抜いた晩餐のような気分のまま、優等生を演じつつもどこか気の抜けたまま昼食休憩までの授業を過ごしました。一応、教師生徒共々僕を不振がるような事もなく、いつもどおりの僕と判断してくれたようです。しかし、午後の授業のためにも少し休憩はしたい。そして僕はそんな時に有効な隠れ蓑を知っている。これは使わない手はないでしょう。
ところが僕は一つ失態をしてしまいました。カバンの中を探って見たのですが探し物は見つからず、そういえば朝に一つ習慣を忘れていたのを思いだました。うっかり弁当を忘れてしまいました。
やむを得ません。一人で食事を取り、心の平穏も摂取したかったのですが、どうやらその願いは叶わないようです。そう僕は少し落胆しながら教室を出て学食へ向かおうとしていたときの事でした。
「あ、古泉君じゃない。ちょうどよかったわ。昼食は?学食?じゃあ一緒に食べましょっ」
「え、ええ。ご一緒させていただきます」
突然のお誘いに僕は少し驚きましたが、平静を装って了承しました。そう言えば学校一の変人であるところの彼女なら、少しは静かに食事できるかもしれません。例え彼女が一人喋り続ける状況だとしても、僕たちに離しかけるクラスメイトは皆無になりますからね。それに、彼女の話は無茶無謀があるようでも、とても面白い見解ばかりで、気分転換にはもってこいですから。
「それでさぁ、キョンの奴がね!さすがに冬に水泳するのは無理があるっていうのよ!そもそも冬にマラソンをやってる学校があるのに、冬の水泳を授業に取り込まないなんておかしいじゃない!冬に裸で歩き回る祭りがあるって話も聞いた事あるし、無理じゃないと思うのよ!」
どうやらお二人で犬どころかクラスメイトも食わないケンカをしていたようです。それにしても彼女と同行するというのは名案でした。彼女の勢いのある話は聞いていてとても楽しいですからね。最も、会話の被害者に僕を含まない場合に限りますけど。
僕は、これで少し気が晴れるならと思いながら、いつもどおりの短い肯定だけでなく僕個人の当たり障りのない意見も混ぜて答えて見ました。
「確かに冬にマラソンを行う学校もありますし、極寒の海を泳ぐ習慣や競技も一部の地域にあります。しかし残念ながら僕たちはそういった特殊な訓練を受けておりません。極寒の海は時に水温がマイナスになることもあるでしょう。着衣もなくそのような海に潜る場合、僕達常人は極端に体温が低下して心臓発作を起こし重傷、悪ければ死亡に至る可能性もあります。申し訳ありませんが冬季海中散歩はあきらめて、冬にも開放している温水プールを探して見てはどうでしょうか」と、僕がいつもとは気持ちを変えた意見を言って見たところ、涼宮さんは少し不思議そうな顔をしてこちらを見つめて、尋ねてきました。
「古泉君、何かあったの?いつもの古泉君なら面白いくらい肯定してくれると思ったんだけど」
さすが涼宮さん、と言ったところでしょうか。どうやら少し感づかれてしまったようです。
「いえ、僕は副団長として、団員の安全を少し考えて提案してみただけです。お気遣いありがとうございます」
「そう?大丈夫ならいいんだけど、なにか不安なこととかムカツク奴が居たら団長の私に報告しなさい。弔い合戦ならやってあげても構わないわ!それに古泉君、大分副団長としての風格が出てきたわね。もし面白そうなのが居たらいつでも仮入団できるように、仮入団権をプレゼントしてあげる!」
僕がかしこまって礼を言うと、彼女は歩をそのまま、前に向きなおして話を続けた。そしてもう一つ、彼が居ないので僕が代わりに訂正しますと、弔い合戦では既に僕が亡くなっている事になりますよ。
そして食堂につくと僕はBランチを頼み、涼宮さんと二人で座席が余る一テーブルを独占して食事をしました。涼宮さんの話す話題には驚くばかりで、どうしたらそんな発想ができるのか疑うばかりでしたよ。そして高校在学中には消化し切れないだろう程の数多くのイベントを聞かせていただきました。どうやらSOS団は少し長引きそうです。なんとなくですが、安心しました。安心して、何故安心したのか疑問に思い、疑問が浮かべば結論も想像できる。
僕は、いつの間にかSOS団が日常になっていたのでした。
涼宮さんとの談笑で、まるで重力から開放された宇宙微生物のように軽くなった体のまま昼休憩を部室でしばらく過ごした後、特にいつもと変わった様子もなさそうに授業を受けて放課後。
教室を出て部室へと早まる気持ちを抑えながら歩を進め、人気がなくなったところで機関に連絡をしつつ部室へと向かいました。
先ほどの涼宮さんとの会話で心の物足りなさはある程度満ちましたが、まだ何かが足りない。そんな気がするのです。
到着した部室では、足りない栄養素を補給するかのように黙々と読書に耽る長門有希と、こちらを見て安堵の表情を浮かべる朝比奈みくるの姿がありました。
「どうやら涼宮さんと彼はまだのようですね」
「はい、先生の話が長引いているのでしょうか……あ、お茶入れますね」
「お願いします」と、僕は机の上にカバンを置いて空いているパイプ椅子に座る。
慣れた手つきで僕用の湯飲みに入れられたお茶が届き、日常と言う仕事に疲れた体に温かみを滲み渡せる。ふぅ、と思わず息をもらします。湯飲みから目を離し僕を見つめる目線の先に気づいて一言、建前とも取れる正直な感想を言うと、彼女は安心と喜びに満ちた顔で礼を言って席に着く。正直彼女がここまで努力家であると言うのは驚きです。そして僕らと同じようにこの地に来て、ここまで馴染むという事実にも。もう既に彼女は元からこの地に居た普通の女子高生、と言っても過言ではないでしょう。良い意味で見た目は高校生とは思えませんが。
そしてふと同僚の顔が浮かび、考えました。仕事としてメイドをやっている彼女と、涼宮さんにやらされて、今では自ら進んでやっている彼女。どちらのほうがメイドらしいのか。次会う機会にでも、それとなく彼女に聞いてみましょうかね。
さて、湯飲みに満たされていたお茶が半分ほどなくなったところで、特に思考する内容もなくなってしまった僕は、オセロに比べて使用回数の少ない、少し埃かぶったゲームを取り出しました。
「将棋で一勝負、どうですか?まだルールは覚えてます?」
「あ、はい。お友達と何度かやった事があるので、多分大丈夫です」と、誕生日に初めてのケーキを出されたペットのような顔をして向かい合う形で席につきました。
「ほう、未来のほうでは?」との、似たような立場の僕からの気まぐれな鎌かけに対しては。
「えと、禁則事項です」と、曖昧さを混ぜた面持ちで答えた。
それは果たして立場上の答えなのか、反射的な返答なのか、あるいは同業者によって脳に刻まれた言葉なのか。それを考えるのはまた今度にしましょう。ルールを必死に思い出しながらコマを指差す、自分の職務をつい忘れそうなほどに愛らしい、あどけない表情の彼女が見れたのですから。
その初々しさに、僕は意地悪な不意をついた先手を出した。
十数分後、僕と朝比奈みくるとの互角の勝負も終盤に差し迫っていた頃、涼宮さんに手首を引っ張られてやってきた彼が、開け放たれた扉の在った空間をくぐって、部室にやってきた。
「ん、将棋やってたの?なんかみんなでゲームでもしようかと思ってたんだけど」と、古い玩具を見つけた子供みたいな目をして彼女は言った。途端に後ろに居た同団員同性である彼が誰が見ても分かりそうなほどの嫌そうな顔をしました。恐らく涼宮さんの漏らした軽い不満に、ちょっとした感想が思い浮かんだのでしょう。
「もう終盤じゃないか。ちょっとくらい待ってやれよ」
「解ってるわよ。団長として、団員とのコミュニケーションが必要だと思って提案しただけよ。ささ、みくるちゃんに奇跡の逆転劇を見せてもらいましょ!」
「え、ええと……」と戸惑う彼女に僕は次の一手、決めの手にも王を救う策にもならない手を出した。すいません他にいい手が浮かばないものでと、言った感じで。
互角なので特に逆転の結果はまだ見えないのですが、彼女にはそんな事は関係ないのでしょう。ただ面白ければ良い、心が沈んでいた今日この日この時ばかりは、日頃から無茶に困らされてばかりの僕も、その考え方に救われたような気がします。
一進一退の試合に痺れを切らしたのか、涼宮さんは僕の対戦相手に指示を出し始め、彼女の保護者役である彼に文句と正答と結論をまくし立てられ、一応は理解して自分に非があると思ったのか、彼女は渋々とパソコンの電源を入れて団長席に着きました。
一方彼は、朝比奈みくるに遅れた謝罪の言葉を述べてから、僕の隣の席について盤を眺めつつ呟いた。
「悪ぃな。俺が掃除で、谷口がさぼって人数が減って、遅くなっちまってな。おかげでお前の仏さんはお怒りだぞ。勝手になんとかしてやってくれ」
一切悪びれずに謝罪を言うという、僕には珍しく見えた彼の行動に苦笑しながらお返しを一言。
「どちらにしろ、彼女の不機嫌はあなたに帰ってくると思いますよ」の僕の言葉に彼は苦々しく、やめてくれと呟いて手で額を抑えた。
その後、僕のミスと朝比奈みくるが偶然気づいた勝利の駒によって勝負は終わり、適当なネットゲームを探した涼宮さんによって、僕たちは再び埃かぶったノートパソコンを使ってゲームをすることになりました。
レベルを上げてステータスを振り、モンスターを倒してクエストを受けるなどの地道な作業はとてもいい暇つぶしになるとは思いますが、涼宮さんの性に合わず、団長専用パソコンからはアンインストールされる事になりました。不機嫌な彼女の顔は、再来する複雑かつ奇妙な事件の前兆を思わせ、思わず背筋が冷たくなります。そして結局いつもどおりのバラバラな行動、長門有希の本を閉じる音が終了の鐘となり、着替える部室内従業員を残して帰る事になりました。
最初思ったときには不思議と感じ、よく考えれば十分に予想できたであろう事に、僕は気付く。涼宮さんが見せた事件の予兆、これから彼女にどんな玩具を与えればいいのか、僕達一同はどんな運命に惑わされるのか。そんな未来があるというのにもかかわらず、僕の中に不安要素や悩みの種が生まれる事もなく、逆に、朝から僕にまとわりついていた沈んだ気持ち、嫌な空気もすっかり晴れていました。
そんな晴れた表情で一方の彼を見ると、時折涼宮さんが話す、彼にとっては理不尽な叱責や罰ゲームの話に少し抵抗を見せるものの、すぐに諦めた様にがっくりと肩を落として了承をしている所でした。その疫病神がついているかのような背中に朝比奈みくるは心配そうな顔で励まし、僕はうなだれた彼に、いいではありませんかと慰め、長門有希は無言で歩く。
そういえば昨日、彼は涼宮さんに強制市内探索へと連行されていたとか。そう、つまり土日月とSOS団はまとまらなかった。団員が欠けていたのでした。もしかしてSOS団の全員とたった三日顔を合わさなかったため、僕は気を落としていたのでしょうか。たったそれだけの事に。いえ、僕にとって『たったそれだけ』でなかったのだから、ショックを受けていたのでしょう。
僕は、気づいた時にはSOS団を仲間だと意識していた。単なる仕事の都合上一緒に居るわけでもなく、偶然でそこに居るわけでもなく、無理を強いられてみんなと居るわけでもなく、望んでここに居ました。例えそこに、僕らが恐れるも崇める対象が居ても、似たようで違う意思を持った敵が居ても、はたまた何の力も能力も持たない一般人が紛れていても、僕は望んでいた。
僕は知らずの内に、先頭を歩く彼女に一声をかけて、奇妙な質問をした。尋ねられた彼女も、周りの皆も、歩を止めて僕を見つめました。そして彼女は言い放った。まぶしすぎるほどの笑顔で。
「古泉君がなんで転校してきたのか細かい事は聞かないけど、古泉君は十分SOS団の一員よ!だって副団長でしょ!」
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